そして、猫のいる風景は無くなった。

気持ちよさそうに昼寝。暖かい春の陽に包まれて小鳥の夢でもみているのだろうか。シマ猫のミロクは、2000年4月9日に東庵の縁側に置かれたダンポールの中で生まれた。最初に見つけたのは、地元の皆んなで花見をして、帰ったときの子供達だった。「あっ、生まれてる!」という声に皆んな集まって箱の中を覗いた。産まれたばかりの目も開いていない小さな子猫が4匹、母猫の乳にしがみついていた。

あれから18年、メスの子猫はすっかりおばあちゃん猫になって東庵に居ついている。

色々あって、猫一匹と一人暮らしになったのは、10年前の事。東庵から東京に仕事に行く事もしばしば。その度に、猫は外飼いになって、専用の猫部屋から出入りしていた。ある日仕事から帰ったら3匹いた猫たちは、ミロク1匹になってしまった。

それから、出かける時には、玄関のポーチまで見送りに来る。そして、頻繁に出かけていた時期には、また出かけるのかといった顔つき。さらに車の前で眠ったりして、まるで抵抗しているみたいだった。

散歩に行くと、どこまでも付いてくる。

出かけた時は、帰る10分前に車を運転しながら、「ミロク、もうすぐ帰るぞ」とつぶやいている。すると、きまって玄関ポーチのところに座ってお出迎えしてくれた。

草を採ってやると、カシュカシュいって食べる。

ブラッシングは最高のひとときだ。

しっぽをブラシで太くして抱き上げる。

車の上が好きだった。

一番のお気に入りの場所。

今年の夏は、殊の外暑かった。毛皮を脱げない猫は、さぞかし暑いだろうと思う。8月に入ってミロクの食欲が落ちてきた。かかりつけの獣医さんには注射を打って貰ったが、年齢的なものとか。18年と5ヶ月経った猫年齢からすると、人間的には90歳〜100歳のようだ。

9月に入ってミロクの食欲はさらに落ちてきて、高齢猫用の餌も治療用の餌も受け付けなくなった。水だけは飲んでいたが、やがて細かく切った鰹の刺身も匂いを嗅ぐだけになった。体重は以前の半分くらいに軽くなり、見るからに痩せてきた。そして、9月27日の未明。ミロクはその生涯を閉じた。翌日の朝、秋の冷たい小雨に濡れた、やせ細った身体は、更に細く見えた。不思議なことに、その横たわった姿勢は、今にも歩き出しそうに前足を一歩出している状態だった。そして目をしっかり見開いて。綺麗な目であった。猫ドアから出て、何処かに行こうとして、そのまま倒れたのか。次の日、雨も上がり、庭の隅に埋めてやった。ミロク、今までありがとう。おまえが居てくれたおかげで楽しかったよ。ゆっくりとおやすみ。

いままで東庵にて可愛がって頂いた皆様、ありがとうございました。
そして、東庵から猫の居る風景はなくなった。